田中宇のユニークな情勢分析     2008年3月19日

 数年前から田中宇のブログを愛読している。
 このブログは国際情勢を専門に分析しているが、ユニークであり鋭い指摘をしていることで一部の人からは高く評価されている。

 田中の情勢分析の最も大きな特徴はアメリカの分析である。
 彼は現在のアメリカ情勢を2つの勢力の葛藤と見ている。ひとつは「アメリカ中心の世界を多極化しようとしている勢力」であり、他は「米英中心の世界を続けさせたいとしている勢力」である。
 多極化願望勢力はブッシュやチェイニーらであり、彼らは表面上は「アメリカの単独世界支配を唱えている」が、その実は「隠れ多極主義者」である。その証拠に、わざと無謀な戦争を始めたり、イスラエルをそそのかし中東に戦争をしかせさせたりしている。また、経済では戦争で無駄使いをしているだけでなく、国家予算が赤字であるにもかかわらず大企業向けの減税をし、国家財政を破綻させようとしている。そのため、アメリカの世界における地位は下がっているし、ドルの信用も下がっている。間もなく世界通貨としてドルは機能しなくなるだろう。

 彼らがなぜそのような無謀なことを試みるのかというと、その背景にはモルガンなどの大資本家がいるからである。彼らは「先進資本主義国の購買力は既に限界に達し、今後の伸びはあまり期待できない。それに代わってこれからの経済成長が期待できるのは中国・インドなどアジア諸国やロシアなどであるから今後は世界を多極化することが自らの利益に繋がる」と考えている。
 米英中心の世界戦略を考えているのは民主党で、彼らは何とかしてアメリカの地位を維持し向上させようとしている。彼らはアメリカの力を維持するためには無謀な戦争はやめたほうがよいと考えており、イラクからの軍隊撤退や大金持ちの減税なども制限しようとしている。前大統領のクリントンはその方針でアメリカの財政を黒字にした。現在の民主党もこの方針である。

 このような分析は大方の人からは荒唐無稽と思われているが、私は大変面白い分析だと思っている。
ただ、彼の分析もかなり揺れていて、最初はパウエルなどハト派といわれる人を多極主義者と呼び、ブッシュなどをアメリカ一極主義の右派・強固派としていたが、途中からブッシュやチェイニーなどを隠れ多極主義者と呼ぶようになった。その根拠は「失敗することが明らかな政策を次々に打ち出すのは、恐らく失敗自体を目的としているからに違いない」ということである。
 「隠れ多極主義者」については間違いだと思うけれど、アメリカに多極主義(世界を多極化しそれぞれが任務分担し協調していく)と一極主義(アメリカが全ての面で主導権を持つ)の争いがあることは間違いないだろう。

 田中の分析を面白いと思っていたのはずっと以前からであるが、特に彼の分析を高く評価したのは、現在問題になっているサブプライム問題を指摘したときからである。

 「アメリカの好景気は住宅建設によって支えられている。住宅建設が盛んなのは銀行が金を貸して建てさせているからである。銀行は低所得者にも金を貸し出して住宅を作らせている。その借金を債権化して高い利子をつけて分散化している。今は住宅の価格が高騰しているからいいが、これがいつまでも続くはずがない。それはバブルのとき日本の銀行が不動産を担保にして金を貸し出したときと同じで、住宅の値段が上がらなくなったときに破綻するはずだ。そのときは経済が大きく狂うに違いない」と主張し、近いうちにアメリカ経済は危機を迎えるはずだと繰り返し警告していた。

 今になるとアメリカ経済の問題点を多くの人が指摘するが、田中が当初警告した時点では誰もこの問題を指摘していなかった。

 イラク戦争開始のときも、イラクに核兵器があるという情報はでっち上げである可能性が強く、CIAは「イラクが核兵器を持っているという情報は怪しい」と政府に警告していたことも書いていた。パウエルがイラクの核兵器疑惑報告をしたときもその演説は「イギリスの大学院生の論文の丸写しであったり、誤情報であることが確認されている」ことを指摘していた。いまから見ると、田中の分析はすべて当たっていたのである。

 また、中国・ロシア・イランなどについても優れた分析をしている。日本では、これらの国は民主主義が不十分で、民衆は人権を抑圧されている、と云われている。だが、田中は別の見方をしていた。
 「今のような見方はアメリカのめがねを通してみた中国・ロシア・イランであって、当事者は自分の国の体制をひっくり返さなければならないとは思っていない。当事者はむしろ現在の体制を支持している」と言うのである。
 そういえばロシアの大統領選ではプーチンの指名者が圧倒的な支持を得て大統領に当選したし、中国やイランでも一見非民主的な指導者が国民の支持を得ている。この現象をどう見たらよいのだろうか。民主主義が不十分であったり人権が尊重されていない事実はあるかもしれないが、その事をもって一概にその政府を否定することはできないことを教えられた。外部からのてこ入れによって民主化を求める騒乱が起こり、そのために治安が悪化して殺し合いが起こったり略奪事件が起きたりしたならば、庶民にとっては不幸な出来事である。だから、国内の政治のあり方を決めるのはその国の国民でなければならないという原則が大切だと改めて思っている。

 かつてバンドン会議で「民族自決、内政非干渉」がうたわれ、私もそれが国と国の関係の基本だと信じてきたが、最近は「人権が侵されている国については何とかしなければならない」という主張がマスコミで主張され、そのように思う風潮が支配的になってきた。だが、これはアメリカから生まれた主張であって、この主張を内政干渉の道具にしているのだというのが田中宇の分析なのだ。その分析は騒乱を起すための準備や金を出している機関や人物(CIEやJ・ソロー)を特定しており、根拠になる資料を明示しているので信用度があると思っている。それ以来、旧ソ連の周辺地域、中国の周辺地域などでいわゆる「民主化運動」が起こるたび私は眉につばをつけてその「民主化運動」を見るようになった。

 ウクライナで親ロシア派の候補に対し親ヨーロッパ派の候補が大規模なデモをした。日本のマスコミはこの争いを人権派と権力派の争いのように解説していた。その結果かどうか、親ヨーロッパ派が勝利したのだが、田中は別の分析をしていた。彼は親ヨーロッパ派のデモが大規模に起きたのは、スポンサー(ソロー)がいて、莫大な金を出して彼らを育て、ユニホームからロゴマークまで造って支援していたことを明らかにした。

 今回のチベット自治区で起きた暴動もアメリカCIAが深くかかわっていると彼は分析している。例えばダライ・ラマ14世はインドに亡命政権を造っているが、それを作らせたのはアメリカのCIAであることを書いている。

 引用
チベット人による独立・自治拡大要求の運動は、中国共産党が政権を取った
直後の1950年代から、冷戦の一環として米英の諜報機関が亡命チベット人
を支援して持続させている、米英の諜報作戦でもある。その歴史から考えて、
今回の騒乱も、北京五輪を成功させて大国になっていこうとする中国政府の戦
略を壊そうとする、米英諜報機関の支援・扇動を受けて行われている可能性が
大きい。

(アメリカでは「多極主義者」と「米英中心主義者」が暗闘しているという私
独自の図式から見ると、五輪の選定会で北京を勝たせたのは多極主義者であり、
五輪を潰すために「これが最後のチャンスだ」と言ってチベット人の運動を扇
動したのは米英中心主義者である)


 ミャンマーで自宅軟禁されているスー・チー女史の夫がイギリス人であることは知っていたが、彼がイギリスの秘密諜報部員であることも田中のブログで始めて知った。

 また、彼は地球温暖化についても「昨年の地球の平均気温は下がっている」ことを発信している。

 最近は中東大戦争が起こる可能性を書いているが、もしこの予想が当たれば私の田中に対する信頼は絶大になるだろう。だが、今回はこれには触れない。


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