イリーナ・メジューエワピアノ演奏会について    2008年9月15日

 イリーナ・メジューエワピアノ演奏会を昨夜おこなった。



演奏当日練習中のイリーナさん
        プロフィール

 ロシアのゴーリキー生まれ。
・ 5歳よりピアノをはじめモスクワのグネーシン特別音 楽学校でウラジーミル・トロップに師事
・ 1992年ロッテルダムで開催されたエデュアルド・フ  リプセ国際コンクールでの優勝をきっかけにオランダ ド イツ、フランスなどで公演。
・ 1997年より日本を本拠地として演奏活動をしている。
・ バロック、古典派から近・現代に至る作品まで  幅広 い作品を手がける。メトネルの紹介を積極的におこなっ ている。
・ 2003年サンクトペテルブルグ放送交響楽団  の日  本ツアーにソリストとして登場した。200  4年および2 006年にはカルテット・イタリアーノと室内楽を共演。
・ これまでにロッテルダム・フィルハーモニー交響楽団、 プラハ交響楽団、日フィル、新日本フィル、東響などと  共演。

・ CDは20枚以上リリース。「レコード芸術」  誌特選3回

 彼女を知ったのはそんなに古くない。おととし(2006年)の春、戸隠でペンションを経営している友人から「イリーナ・メジューエワさんというピアニストがうちで演奏会をする予定だが、次の日にそちらで演奏会をしないか」という話があった。私はイリーナ・メジューエワというピアニストを全く知らなかったので、その時はお返事を保留し、演奏会を聞きに行くことを約束した。

 戸隠のペンションで聞いたイリーナ・メジューエワは素晴らしかった。この写真で見るように、彼女は大変な美人でとても繊細に見える。この人がベートーヴェンを演奏しても優しすぎるのではないか、と思っていたのだが、最初の一音をきいてびっくりした。

 ペンションのピアノはアップライトで普通の家庭にあるものと変わりないように見えたのだが、ピアノから出る音は私の想像をはるかに超えたものだった。「このピアノからどうしてこんな音が出るのだろうか」私は魔法使いの指を見ているような気分になっていた。

 演奏が終わったあと、お茶を飲みながらイリーナさんを囲んで懇談した。その時私はうちの美術館が平和を願い原水爆禁止を訴えた上野誠という版画家の作品を展示していることを話して「帰りに寄ってみませんか」と言ったところ「寄りましょう」と言うことになり、翌日一行がここに立ち寄った。イリーナさんは来るが早いかピアノのふたを開けて弾き始めた。彼女はここが気に入ったようだった。

 そんなことがあり、昨年「イリーナ・メジューエワピアノ演奏会」を開くことができた。せっかく来てくれるのだから大勢の人に聞いてもらいたいと思い、直前に彼女のインタビューが載った新聞の切抜きなどを同封して手紙を出したりチラシを配ったが、反応はかんばしくなくて、来た人は30名にも満たなかった。

 夏になって演奏のお世話をしてくれている池田さんから連絡が入り、曲目が送られてきた。


                        プログラム
                 第1部
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第24番 嬰ヘ長調 作品78
ラフマニノフ:前奏曲 嬰ハ短調 作品3の2
練習曲《音の絵》 ハ長調 作品33の2
前奏曲 ト長調 作品32の5
楽興の時 ホ短調 作品16の4
メトネル:4つのおとぎ話 作品26

                 休憩

                 第2部
ムソルグスキー:展覧会の絵
   プロムナード
   1 こびと
   2 古い城
   3 テュイルリーの庭〜遊びの後の子供達の口げんか
   4 ビドウォ(牛車)
   プロムナード
   5 卵の殻をつけた雛鳥の踊り
   6 サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ
   プロムナード
   7 リモージュの市場
   8 カタコンブ〜ローマ時代の墓地
     死者ト共ニ死者ノ言葉デ
   9 鶏の足の上に建つ小屋〜バーバ・ヤガー
   10 キエフの勇士の門(キエフの大門)

 それによると今回の演奏のメインはストラヴィンスキーの「展覧会の絵」だと言うではないか。これには驚いただけでなくじつに嬉しくなった。というのは、昨年の演奏会の時「展覧会の絵」のCDを買って聴いたところ、そのライブが凄い演奏だったからである。一曲一曲が実にドラマチックに演奏されていたのだ。聴いた後「できれば来年はこの曲を演奏してもらいたいものだ」と思っていた。それに、演奏会場は小さいながらも美術館であるから、必ず展覧会はやっている。美術館で「展覧会の絵」を演奏してもらえればこれ以上のことはないではないか。こんな私の夢が実現するのだ。これは是非とも成功させようと思った。

 今年は昨年の徹は踏みたくなかったので、かなりきめ細かく案内をした。案内文には私の経験したことも書き添えた。そのせいか、50名ほどのお客さんが来館してくださり、会場はほぼ満席になった。ピアノを会場の中央に置き、それを囲むように座席を並べたので贅沢な演奏会である。建物は貴族の宮殿とは比べ物にならないけれど、名人が弾くピアノを少人数で聴くことだけをとってみると、王侯貴族がモーツアルトの弾くピアノを聴いているのと変らないように思えた。

曲の解説をしているイリーナさん


 演奏は心打たれるものだった。興奮した何人かは館に残ってその感激を語り合った。

 「ピアノの音があんなに変るのですねえ。いつも聞いているのと同じピアノだとは思えませんでした」「ぼくはメトネルの曲の演奏を聴いて、彼女のショパンを無性に聞きたくなって、ショパンのCDを買った。」「とても素晴らしい演奏だった。もう一度やるようだったら神奈川から聴きに来たい」「展覧会の絵は実にドラマチックな演奏だった」等々の感想がだされた。

 面白かったのはFさんの感想で「譜めくりをしていた人の存在感があって驚いた。ただ、楽譜をめくっているだけだし、入る時も演奏者の後から入ってきて隣に坐るだけなのに馬鹿に存在感があった。喉仏が出ている男が少なくなっているのに、彼ははっきりと出ていて男らしい男だった」
 面白いところに目をつけている人がいるものだと驚いたが、中々鋭い感覚だと感心した。

 2階の展示場を控え室にしていたのだが、ここに展示してあるケーテ・コルヴィッツの連作版画「農民戦争」の『鋤を引く人』に目をつけたイリーナさんは「この農民の姿は「展覧会の絵」3曲目のビドウォ(牛車)の虐げられた農民の姿そのものです」と話してくれた。
 ビドウォという言葉の意味はよくわからないが、ロシアの農民が牛に鋤を引かせている姿が連想され、その姿をこの版画に重ね合わせたイリーナさんの言葉に心を打たれた。

農民戦争シリーズ全7葉中 1番
『鋤を引く人』
ケーテ・コルヴィッツ

「農民戦争」は、過酷な労働と悲惨な毎日に耐えられなくなった農民が鎌や鍬を手に一揆を起した末、敗北して捕らえられる結末までを7葉の銅版画にしたものでコルヴィッツの初期の代表作である。

 翌日松代から親子で見えたNさんは彼女宛への手紙(コピー?)を当館に持参してくれた。

 イリーナ・メジューエワ様

 昨日は素晴らしい演奏を聴かせていただきありがとうございました。お帰りが忙しいということで、お声もかけずに帰ってしまいましたが、感動をお伝えしなかったことが心残りで、失礼とは存じましたが、このようにお手紙を書かせていただきました。
 当日は中学3年生の息子と同行しましたが、息子は毎年、あの美術館のあのピアノで発表会をおこなっているので、感動もひとしおの様子でした。
 その息子も私も驚いたのがピアノの音が、曲が進むうちに全然変わってしまい、いつも聴いているあのピアノとは音色がまったく違ってしまったことです。ダイナミックで深く、そして繊細で柔らかい音になってしまい、まさにピアノは生き物だと感じました。もちろん、それを自在に操るためにはピアノを熟知しなければなりませんので、メジューエワさんの日ごろの鍛錬の賜物と感嘆しました。
 演奏を曲目ひとつひとつについて述べるほどには知識もありませんので、失礼したいと思いますが、どの曲ももう一度聴いてみたいと思わせる力強く素敵な演奏でした。息子は「展覧会の絵」を初めて生で聴いて大変感激していました。「キエフの大門」で聴こえる鐘の音の美しさも素敵でした。他の選曲もよく、ラフマニノフ、メトネルにはずっと浸っていたいと思いましたし、「テレーゼ」の美しさにも魅了されました。
 是非、また演奏会にはうかがいたいです。大きなベートーヴェン・プロジェクト、どうかお体に気をつけて、楽しみながらがんばっていただきたいと思います。今後のご活躍を祈念いたします。ありがとうございました。                 
                                              長野市  N
 

 

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