上野誠とK・コルヴィッツ 1   2009年7月6日

 先日、新潟市の「ちいさな美術館 季(とき)」で上野誠版画展が行われました。その時「上野誠とコルヴィッツ」について私の考えを少し述べたのですが、その時の話を下敷きにして両者について考えてみることにします。

 上野誠がケーテ・コルヴィッツに私淑していたことは良く知られています。彼自身アンケートに答え次のように書いています。「作品のなかの思想性の深さ・悲壮感を持った高度な表現力に共鳴して1937年以降数年間コルウイッツに傾倒した」「最も尊敬している画家」(「美術運動」83号1968年10月)」
 また、息子の上野遒氏は「父の自作年譜には、一九三七年、ケーテ・コルヴィッツを知り傾倒と記されているがこの画集との出会いは版画家としての父の生涯の方向を決定付けたものだったと思われる」

 コルヴィッツの影響は構図に明らかである。

母子 母と子 額に手を当てた女

 だが、技法上も手の描写などの力強い描き方に彼女の影響が見える。
        老人       鎌を研ぐ(農民戦争シリーズ)

 だが、このような表面的な影響よりも彼女の描くことに対する姿勢(主題)こそが上野を感動させ、大きな影響を与えたのだと思う。これについて上野遒氏は以下のように述べている。

 「何より強く父を捉えたのはコルヴィッツの作品の主題であり、その主題をみつめるコルヴィッツの眼であったろう。しいたげられた農民や労働者の現実の生活の中に生起する悲しみや怒りを、コルヴィッツほどに明確に力強く強い愛情で造形化し得た画家がいただろうか。コルヴィッツの作品にはじめて接したときの父の興奮・感動・共感の強さが私には想像できる」

このように、コルヴィッツの上野に与えた影響は大きいが、上野とコルヴィッツの違いも実に大きいのである。

 すぐ分かるのはコルヴィッツが数多くの自画像を描いているのに対して上野は自画像をほとんど描いていない。生涯にただ1点、ごく小さな作品があるだけである。このことは何を意味しているのだろうか。


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