私の信用する人   届かなかった花とお店の対応   2010年12月6日

 昨日(12月5日) 米山政弘さんの「『水彩画の教科書』出版を祝う会」を行った。盛会で楽しい会だったが、ハプニングがあった。
 開始時刻が迫ってきているのに花が届かない。12時30分から1時ごろまでに届けてほしいということだったのに既に1時15分をまわってしまった。お客さんは入ってくるし、気が気でなくなり「花B」に電話を入れた。
「花Bさんですか。」
「はい、花Bでございます。」
「私は川中島のひとミュージアムですが、まだ花が届かないんですよ。どうなってるんでしょうか。」
「え!そうですか。いま、担当のものが出ていますのでちょっとお待ちください。調べてすぐお返事いたします。」
という返事があって5分程すると
「もしもし、花Bでございますが、電話を受けた担当者が出てしまって連絡がつかないのですが、お届けの時刻は何時でございますか?」
「出版記念会開始時刻が2時です。約束では12時半から1時の間に届けていただくことになっていたのですが、もう一時半ですよ。準備を始めないと間に合わないじゃないですか。」
「申し訳ありませんが、担当者と連絡がつきません。どこかほかで間に合わせることはできないでしょうか。」
「今から市内を出発したのでは間に合わないので、キャンセルにしてください。出来るかどうか分りませんが、こちらで何とかします。」
というようなやり取りがあり、妻が急きょ近くのスーパーの花屋に飛び、花輪と花束を注文し、「2時に間に合わなかったら、花束だけにしてくれ」と頼んで帰ってきた。花束は会の終りの「花束贈呈」に間に合えばいいので、あわてることはなかった。

 開会の時刻になったが、参加者が着席するのに少し時間がかかり、10分遅れで開会した。花輪はまだ届かない。今届かなければ正面に花を飾ることが出来ない。「仕方ない、花輪はなしで始めよう」と決断して開会した。実行委員長の挨拶が終った頃、表で何か言いあっているのが聞こえ、二時半ごろ花輪と花束が会場に入ってきた。花輪は仕方なく会場の後ろに置き、会をつづけた。
 私は司会をしていたので分らなかったが、妻は花がいつ届くのか気が気ではなく、何回か道路へ出て見たが、開会時刻を15分ほど過ぎて近くの店の花が到着した。花輪の到着時間をめぐって押し問答があったようだが、花輪をふくめ代金を払ってしまったので、花を受け取り会場に運び込んだ。店員が出て行って間もなく、「花B」の店員が花を運んできた。彼は既に自分の到着した時刻が開会に遅れたことを知っていて、平身低頭「申し訳ありません」と頭をさげ、「代金は入りませんからどうか花を受け取って下さい」と繰り返し詫びて帰ったそうだ。

 開会に間にあわなかったので正面に花を飾ることは出来なかったが、思いがけず花束が二束揃ったので花束贈呈は米山さんご夫妻に差し上げることが出来た。

 翌日、美術館に「花B」から電話が入った。出ると女主人らしき人が「昨日は本当に申し訳ありませんでした。昨日6時ごろおわびのご挨拶をするため美術館を訪問したのですが、すでにしまっておりおわびできませんでした。誠に申し訳ありませんでした。」という挨拶があった。

 花Bから花が届くことは「あるいは、あるかもしれない」と思っていたが、わざわざ当館まで謝りに見えるとは思ってもいなかったので大変嬉しかった。こういうことは金では代えられないのだ。

花Bさんから届いた花 急きょあつらえた花

 話はこれまでなのだが、この対応を終えて、私は以前のことを事を思い出した。

 十数年以前、Tガクブチ店で額をあつらえたことがあった。上野誠の「働く炭焼き」という版画の額縁を頼み、かなり長い間取りに行かなかった。別の用で行ったとき額を請求したところ、散々探したが見つからない。そこへ別の人が来て「これだけ探して額はないのだから、お客さんが間違えたんではないでしょうか」といわれたことがある。そんなはずはなく、その場所に置いてあったと横を指したところ「大きな額がこの場所にあったとしたら私や店員の目につかない筈はありません。それはお客さんの思い違いですよ。」と強く言われたことがある。「そんなことはない」と何回も押し問答をした末「絶対にあり得ません」と断言され、仕方なく帰ったことがあった。腹のなかは煮えくり返る思いであったが、自分にもすぐ持ち帰らなかった弱みがあったので、そのままになってしまったが、「いかなることがあってもこの店からは額は買わないぞ」と決意した。

 それから数週間たった時、Tガクブチ店から電話が入った。出ると奥さんが「先生誠に申し訳ありませんでした。額が出て来ました。内の奥にしまってありました。先日はあのような事を申し、本当に申し訳ありませんでした。」と繰り返しあやまってもらった。
 私はその言葉を聞いた時は本当に嬉しくなった。悪質な業者だったら、仮に額縁が出てきたとしても黙ったまま処分して知らん顔をしていたかもしれないのである。それを、自らの非を認めて謝罪するには勇気がいったにちがいない。それ以来私はTガクブチ店には絶対の信頼を置いているし、Tさんも信頼に応えてくれている。

 更にはるか以前のことになる。
 岩波書店から「志賀直哉全集」が出版された。志賀直哉には興味があったので購読していた。毎回の月報の終りに校訂した箇所が書かれ正誤表が載っていた。時には、かなりの数の誤もあり、編集に苦労されていることが分った。
 正確には忘れてしまったが、第二巻が配本されてからどのくらいか経った配本の月報にこんなことが書いてあった。「志賀直哉先生は言葉には厳密な方だった。一字一句を大切にされていた方だったにもかかわらず、第二巻は校正ミスがたくさんあり、恥ずかしい次第である。あまりにミスが多く、このままでは全集を刊行できないので全集第二巻を現在新しく印刷しなおしている。この巻については配本をやり直し、読者の皆様にお届けすることにした。ご迷惑をおかけして誠に申し訳ないが、新しい巻がついたら、古い巻を当社に送料先払いで送り返してほしい」といったものだった。全集は厚さが5センチ近くあり、校正ミスは誤字脱字含めて二十箇所ぐらいあったように思う。

 配布した本を全部回収して新しく配布しなおすとしたら利益は出ないではないか。そんなことをする出版社があるのか、と大変驚いた。今でこそ自動車のリコールがあり、取り換えをする商品もあるが(今でも配布された本の取り換えはないのではないか)、当時はそんなことは一切なかったので、私は感動したのだった。

 私はおっちょこちょいなところがあり、よく間違いを犯すことがあるが、言い逃れをしたり、ごまかしてしまうことが多い。正直に謝ればいいのになかなかそれが出来ない。そんな自分を振り返って、今まで書いてきたような場面にぶつかると「すごいなあ」と思うのである。そして、その会社や人間を信用する。今迄その信用は裏切られることがなかったし、これからもないと信じている。
 


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