「市場経済を通じて社会主義へ」進む道はあるのか   2005年12月13日

 可知正(日本共産党付属社会科学研究所幹事)という人の書いた「21世紀の社会主義的変革の条件と可能性」という論文を読んだ。この論文は中国の当代世界研究センターとドイツのローザ・ルクセンブルグ財団の共催による国際シンポジウム「発展と創造 21世紀初頭における世界の社会主義―ケ小平生誕百周年記念」への提出原稿だということであった。

 初めにこの論文の目次を見てみよう。

1、20世紀には世界の構造が変動した
 ・植民地体制の崩壊と国連の「平和と国際秩序」提唱
 ・「二つの体制の共存」―20世紀におきた世界情勢の重要な発展
2、現在の世界はどこに向かっているか
3、資本主義の矛盾は、かつてなく大規模で鋭くなっている
 ・地球規模に広がった貧富の格差の拡大
 ・資本主義的生産の無政府性は地球上の生命の存続を脅かしている
4、それぞれの地域で、多様な形態の体制変革の準備が進んでいる
 ・「市場経済を通じて社会主義へ」の道は、広い意味では世界的な普遍性がある
 ・AALA地域でも、新しい社会発展の道が求められている
5、21世紀の社会主義の流れの国際的条件

 一読してみて疑問点や納得できかねることはいくつかあったが、特に解明したい2点について書いてみる。

 第1点は「3、資本主義の矛盾は、かつてなく大規模で鋭くなっている」に書かれている”貧富の格差の増大”と”地球上の生命の存続の危機”についてである。

 可知氏はここで貧富の格差拡大が国内でも国際的にも広がっている事実を資本主義の矛盾としている。私もそのことに異論はないが、氏は現在の世界を四つに分類し中国、ベトナム、キューバなどを「社会主義をめざす国」と分類している。
 ところが、その中国やベトナムで貧富の格差が大変な勢いで広がっていることは誰でも知っている事実である。中国での格差の拡大は日本の何倍かのスピードで広がっているようである。また、国民の意識も金儲けに汲々としていることも多くの人が指摘している。当館の仲間で毎年中国を訪問している方の意見も同じであった。


http://tanakanews.com/ 1月13日(経済発展が始まりそうな北朝鮮)

 これは私にはよく理解できない。中国が資本主義国だというのならば貧富の格差が大きくなっていることに納得いくのだが、社会主義をめざす国に分類し、なおかつこの論文の後半では現在の中国などの行き方を高く評価しているのだからまったくわからないのだ。

 同じことは環境問題にも当てはまる。
 中国の環境汚染がひどいということはよく知られている。スモッグがおき人体にも悪い影響が出ているということだ。それだけではない、中国から輸入されている野菜などから農薬が検出されている。しばらく前農民連の皆さんが独自に検査して中国からの輸入野菜から毒物を検出したということも聞いたことがある。生協の組合員の中には中国産野菜といっただけで「あぶないからやめたほうがいいよ」と忠告してくれる人がいるほどだ。つまり、中国産野菜などは決して安全でないだけでなく国内産や他国産と比べても危険度はきわめて高いのである。

 このように見てくると「貧富の格差」でも「環境問題」でも「社会主義をめざす国」は資本主義国以上に問題のある国になってしまう。

 ところが、資本主義国でもヨーロッパ諸国や北欧などは貧富の格差や環境問題がそれほどひどい状態にはなっていないように見える。あるいは私の知識不足かもしれないが、少なくとも環境問題などはこれら諸国は日本やアメリカとは比べ物にならないほど厳しい規制がされており、一般にもそのような教育がされている。
 こう見てくると現在の世界の体制を四つに分類することには無理があるようにも見えるがどうなのだろう。
 
 第2点は「市場経済を通じての社会主義への道は、広い意味では世界的な普遍性がある」という点についてである。

 可知氏は現在の中国やベトナムの市場経済活動を「現実の要請から生み出されて探求が開始され、経済的活力を発揮しつつある」とされているが、現在の中国における経済活動はアメリカや日本の経済活動とどう違うのかがよくわからない。資本家がいて外資を導入し、労働者を低賃金で働かせている経済活動がどうして社会主義への過程なのかちっともわからない。それどころか中国では現在も国有企業を私企業にするために国が動いている。その理由は、国営企業は効率が悪く、私企業のほうが効率がよいというものだ。

 アメリカ・日本・ヨーロッパの資本は中国に大規模の投資をしているが、その多くは低賃金が目当てであり、新しい金持ち階級で形成された市場が目当てである。つまりこれは紛れもない資本主義経済であってそれ以外の何者でもない。
 だからこそ中国では貧富の差が大変な勢いで拡大し、環境汚染や食品への毒薬物混入がおきているのだ。また、幹部の汚職や腐敗が続発しているのだ。


 官僚の賭博が深刻化 中国、国民性との指摘も
 
【北京22日共同】中国で官僚が多額の公金を横領、賭博につぎ込む事件が続発し、胡錦濤政権が「官僚賭博の撲滅」を腐敗対策の核に位置付け、対策に躍起となっている。ただ「賭博好き」の国民性も指摘され、どこまで効果があるのか疑問視する見方もある。
 各メディアでは連日賭博事件の特集を組みキャンペーンを展開。19日の中国紙、京華時報は寧夏回族自治区公安当局が同自治区固原市の賭博事件を摘発、国家機関幹部ら13人を拘束したと伝えた。賭け金は総額8万5000元(約106万円)で、同紙はこの地区の「貧困層120人分の年収に当たる」と糾弾した。
 賭博現場は国内にとどまらない。人民日報傘下の環球時報によると過去数年に、官僚や国有企業幹部数十人がマカオのカジノで公金を使って豪遊していたことが発覚、一部は数百万元や1億元を浪費したと伝えた。
(共同通信) - 1月22日17時41分更新

汚職公務員4万3750人 中国、腐敗に歯止めきかず
 【北京=野口東秀】中国の賈春旺(かしゅんおう)・最高人民検察院検察長(検事総長)は九日、北京での全国人民代表大会(全人代=国会)で、昨年一年間に汚職で立件された公務員が四万三千七百五十七人に上ったことを報告した。同時に行われた蕭揚(しょうよう)・最高人民法院院長(最高裁長官)の報告でも、中国での官僚腐敗の深刻さが改めて裏付けられた。
 報告によると、汚職公務員の容疑では、収賄が三万五千三十一人で最多だった。捜査機関が検挙した汚職公務員は、一日当たり約百二十人。ランク別では、地方各省のトップを含む閣僚級高官は十一人、局長級は百九十八人だった。
 収賄、横領の額が百万元(約千三百万円)を超える事件は千二百七十五件で前年比4・9%増となり、汚職規模の大型化が進んでいる。汚職による経済損失は、回収された額だけでも約四十六億元(約六百億円)だった。二つの報告は歯止めのかからない官僚腐敗を浮き彫りにしたが、これも氷山の一角だ。中国紙「国際先駆導報」は、中国が改革・開放路線に移行した一九八〇年代以降、約四千人の汚職官僚が海外に逃亡し、持ち逃げされた資金は総額五兆数千億円相当に上ると伝えた。
 ー(産経新聞) - 3月10日3時2分更新


 また、彼は次のように言っている。「日本のように資本主義的市場経済が高度に発達している国々では、社会主義をめざす場合、市場経済の中に社会主義の部分が生まれ、その合理性と優位性が市場経済の中で点検されながら、次第に比重と力量を増してゆくという経過をたどるでしょう」

 中国では、ケ小平主導のもとに国有企業が次々に廃止され(倒産し)私企業(株式会社)が出来た。その流れは現在も続いており企業は大変な競争の中にいる。つまり、中国当局は効率という面から見ると競争させるほうが効果があるとみているのである。
 可知氏はそれを知っているので「日本のように資本主義市場経済が高度に発達している国々では」という前書きをつけている。だが、果たして高度に発達した資本主義市場ならば、『市場経済の中に社会主義の部分が生まれ、その合理性と優位性が市場経済の中で点検されながら、次第に比重と力量を増してゆく』だろうか。
 
 日本でも『社会主義的部分であった』国鉄は民営化されたし、電電公社も民営化された。国鉄(電電)民営化には「組合をつぶす」という大きな目的はあったがそれだけではなく、外と内で激しく競争させて他企業との戦いに勝つという目的もあったのだ。

 もし、社会主義的な部分が優位性を持ち、合理的であったとしたら、国鉄や電電は市場経済の中でもっと優位に立っていたはずだ。国が保護政策を持たず市場の中に放り出したならば私企業に敗れ去ったであろう国鉄の経営は決して優位でも合理でもなかった。だから、私は『市場経済の中で社会主義の部分が次第に比重と力量を増してゆく』などという甘い言葉はすぐには信じられないのだ。

 逆に言えば現在の東日本鉄道を国(公)有化(社会主義化)するならば経営は安定しサービスは向上するだろうか。「市場経済の中に社会主義の部分が生まれ、その合理性と優位性が市場経済の中で点検されながら、次第に比重と力量を増してゆく」とはそういうことだと思うのだが違うだろうか。
 
 もしそうだとするならば、私はそれは無理だと思うし、違うとしたらどこが違うのか教えてもらいたいものである。

 ソ連、東欧諸国、中国などで国有化した企業の効率が落ち競争に敗れた結果、ソ連が崩壊し東欧の(社会主義)国も崩壊した。もちろん崩壊した原因には権力の腐敗、民主主義無視などの要素があったことは事実だが、土台のところで経済の崩壊があったことは間違いない。ユーゴスラヴィアが独自に行った「労働組合による工場の自主管理」方式などは注目されるが、この国も国際競争力では敗北した。

 本来合理性と優位性を持っているはずの「社会主義(経済)」がなぜ資本主義に破れ崩壊したのか。その解明をせず、あとから「あれは社会主義ではなかった」などと言っても解明にはならない。マルクス主義経済学者や政党指導者は当時、ソ連や中国、東欧諸国を念頭において「社会主義経済の合理性と優位性」を説いていたのだから。


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